黙れば絶対に負ける。
主導権を握られる。
「汐乃」
自分の名前を呼ばれただけなのに、脳の奥がびりびりと痺れるみたいな。
そんな感触に目の前がくらみそうになって。
「、」
振り返れば、頰が赤く色づく。
出会って付き合って別れてまた付き合って結婚して、雅が生まれて。
何年経ったって、この人は綺麗だ。
「顔赤いぞ」
揶揄う声ですら愛おしいと思うのだから、困る。
「誰のせい、だと……」
「ふっ、そうだな」
そうだな、じゃないわよ。
だから何十年経ったってどうしようもないぐらい好きなのよ。
今もまだ、キスされるとわかるだけで頰が赤くなるぐらいに。
「……愛してる」
吐息の隙間で囁かれる甘い声。
何度も告げられてきた愛の言葉。
聞いた回数は数え切れないくらいなのに。
聞き飽きたなんて、絶対に思わない。



