お菓子持ってなかったからって雅にキスされてたわよね……と。
麗からバッグとジャケットを受け取りながらその様子を見守っていたら、紙袋を差し出す雅。
ロゴは、街で見かける人気のショコラショップのものだ。
鮮やかなオレンジ色の紙袋だから、どうやらハロウィン限定ものらしい。
「言われると思って、さっき休憩中に買ってきた」
「あ、ありがとー……」
……千夜ちゃんが困惑してる。
どう見ても目が「この予定じゃなかったんだけど!?」って言ってる。
そうね。彼女は、今年もおそらく2年前と同じ展開を迎えると思っていたんだろう。
それなのにあっさりとチョコを渡されて、拍子抜けしてしまっているらしい。
「ふふっ、雅も着替えてらっしゃいね」
でも雅のことだから、何かしら考えあってのことだろうし。
ふたりを残して寝室に向かい、バッグは定位置のチェアの上。
クローゼットにジャケットをおさめ、くっとネクタイをゆるめた麗からそれを受け取る。
それから彼にラフな部屋着でも渡そうか、と。
背を向けて屈もうとした刹那。
「え、」
──とん、と。
私の背後から、クローゼットに手をつく彼。
屈もうとしていたけどまだ屈んでいなかったせいで、麗とクローゼットにはさまれる形になる。