まだ頬をふくらませている彼女にくすくす笑うと、千夜ちゃんは何かを思い出したように顔を上げて。
「汐乃さんも、麗さんに言いますよね?"トリックオアトリート"って。
麗さんどんな反応するのかな……」
「……さあ、どうかしら」
私が欲しいのは、お菓子でも何でもなくて、永遠に変わらない日常だけだ。
もうすでに手に入ってるものを願うなんておかしいかもしれないけど、
こうやって麗がいて、雅がいて、千夜ちゃんがいて。
そんな毎日だけでいい。
だから、何かお願い事をできるなら、私はその変わらない日々だけを願うんだろう。
「気が向いたら、言ってみるわね」
◆
「麗さん、遅くなるんですよね……
せっかく汐乃さんがごちそう作ってくれたのに、ちょっと残念です」
「仕方ないわよ、千夜ちゃん。
ごちそうって言ってもそんなに大したものじゃないし、いつでもできるから」
「そう、ですか……」
麗から、悪いけど遅くなると連絡が入ったのは、すこし前のこと。
麗が遅くなると言った日は、大抵日付けを超えてしまうから、晩ご飯は3人だ。
「麗が帰ってくるまで待たなくていいのよ?
明日も学校なんだから、遅くならないようにね」
「はぁい……」