「まったく頑固者だわ。」

私は駅からタクシーで自宅へ帰った。

深沢家はリゾート開発で成功した財閥だ。

二人の兄たちは父と共に

一年の半分以上は海外で経営に力を注いでいた。

長女である私は東京オフィスでの執務を任されていた。

上層部と部下たちは比較的私に従順だが

ゆずるさんはフィアンセとして

将来的な共同経営に参加する意志がないことに固執していた。

私からの再三の説得にも全く聞く耳持たずだ。

「どうしたものかしら。」

兄たちに相談するべきかもしれないと思い唇を噛んだ。

翌朝8時にオフィスの執務室でメールに目を通していた。

電話が鳴った。

こんな時間にかけてくるのは兄しかいない。

カナダのケベックは夜中だ。

「はい。」

「律。メールを読んだよ。明日中にそっちへ飛ぶ予定だ。迎えはいらないから時間を空けておくように。」

「誠二兄さんだけ?」

「平次郎は後から来る。」

「平次兄さんも?」

「親父もその後来る。」

「どういうことなの?」

「単なる骨休みさ。」

「嘘よ。有り得ないわ。」

「まぁ、いろいろあるんだ。着いたら話すよ。」

「私には何をさせる気?」

「何もない。普段通りでいい。」

「わかったわ。」

「また連絡するよ。」

私は受話器を置いて爪を噛んだ。