_____一週間後、下駄箱にて。
俺は愕然とした。
足がカタカタと音を立てて震える。
目の前の光景に失神寸前だ。
見慣れた、忘れかけていた光景に心臓を握りつぶされそうだ。
ロッカーにマジックでびっしりと殴り書きされた『死ね』の文字。
切り刻まれた俺の上履き。
そんな、なんで。
やめろ。
やめてくれ。
刹那、フラッシュバックされるあの記憶。
やめろよ。
_お前なんか死んじゃえ。
_何度も顔面を踏みつけられる。
やめろ、やめろよ。
許して。
_俺の給食のスープにはいつも大量の虫が浮いていた。
_見て見ぬふりをする教師。
やめてくれ…。
_みんなが俺の悪口を言っている。
_今日もトイレに閉じ込められた。
上から水が降ってくる。ほうきも、ゴミも降ってくる。
あ、あ俺は、
「うわぁ‶ぁあぁあア‶ぁぁアア!!!!!!」
悲痛な俺の悲鳴が校舎にわんわんと響く。
瞬間、皆が俺を好奇の目で見る。
痛みを感じるほどに突き刺さる視線。
痛い、痛い。
やめてくれ、逃げたい。俺は、
重々しい鈍痛を訴える頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
嫌なイメージを一つ一つ消していく
消えろ、キエロ。
俺はもう昔とは違うんだ。
心の中でずっと泣きわめいていたあの頃とは違うんだ。
暗闇の世界で一人ぼっちのあの頃とは違うんだ!!!
_泥だらけの体操着。体中に刻まれた傷。消えない痛み。
忘れたいのに、消してしまいたいのに
鮮明にこびりつく記憶が俺を逃がさない。
もう俺は発狂状態だ。
「邪魔だ…邪魔だ邪魔だ邪魔だ!」
近くで俺を笑っていた男子を突き飛ばし、逃げるように校舎を突き進む。
すれ違う生徒たちが驚き、騒ぎ、罵る。
だがそんな事どうだっていい。
荒くなる息を呑み殺して、階段を駆け上がる。
誰もいないところへ行きたい。
また一人きりの世界に逆戻り。
もうそれでいい。
なんだっていい。
少しでも他人を信じた俺が馬鹿だった。
所詮俺はよそ者さ。
離絶された壁をとても越えられそうにない。
もう越えようともがくことも馬鹿らしい。
ガチャ
やっと解放される!
俺は屋上まで駆け上がり、震える手でドアノブを回した。
「誰?」
先客の声を聴いたとき、俺は硬直した。
なんだ、次は何をされる。
お前も俺の敵なんだろ。
やれよ。
俺は抵抗なんてしないさ。
「なにそんなところで立ってんの?ほら、こっち来れば。」
「はっ?」
驚きのあまり素っ頓狂な声が出た。
そこにいた女子生徒は、クスリと笑って俺を手招きした。
その目は見たこともないほど澄み切っていて、
不思議な魅力を持ち合わせていた。
「なんで…。」
「なに?どうしたのよ。変な奴。」
女子は俺に近づいてくる。
ゆらゆらと風に揺れる二つ結いの髪。
「ほら、いつまでもそんなとこ立ってないで!」
固まる俺の手を、小さな手に握られた。
その手はひんやり冷たかった。
でもなぜだろう。
心は逆で、とても暖かい気持ちになる。
「な、なにするんや!」
こんなの慣れて無くて。
乱暴に手を放してしまう。
「もう、痛いじゃない!それに君、1年の後輩君でしょ?この前転入してきた!先輩には敬語だよ?」
ピシッと人差し指を立てて、頬を膨らませる。
その艶やかな素肌に見とれてしまう。
「まぁ別に、私はタメ口でも気にしないけどねー。」
楽しげに話す彼女は俺とは正反対で。
なんだろう、彼女のペースに呑みこまれそう。
太陽の光に負けないほど眩しい彼女の笑顔。
…なんて、クサいかな。
俺は心で苦笑する。
その時、
キーンコーンカーンコーン…
1限の開始を告げるチャイムが鳴った。
「ほらほら、1限始まったよ!私はサボるけど、君は行ってきなさい!」
俺の背中が両手で押される。
「嫌や!」
本当は、心の底では一人ぼっちは嫌なんだ。
もう、辛くて仕方がないんだ。
思わずあげた大声に、彼女は肩をすくめた。
「まったくもう、いきなり大きい声出さないでよ。」
「もう少し、お前と一緒に居たいんや。」
「はっ!?」
それは単純に思ったことだった。
気まずい沈黙が流れる。
時間がたつほど自分が言ったことの恥ずかしさに気づく。
じりじりと赤面していくのがわかる。
「い、今のはなしや!俺もサボりたいからここにいるだけやからな!」
精いっぱいの強がりを吐き捨てて、フェンスの傍へ逃げる。
緑の金網に指を絡ませ、ゆっくり呼吸を整える。
なんなんだ。
こんな感情、はじめてだ。
胸の奥がどうしようもなく熱い。
「ちょっと、なんで逃げんの!」
「はっ!?ついてくんなや!」
「私が先に居たんですけど。」
「お、俺は今忙しいんや!ほっといてや。」
「1限目サボっておいて?」
「それはっ、」
俺が言葉に詰まると、彼女は笑い出した。
俺もつられて笑う。
心の底から笑う。
こんな俺にでも優しく接してくれる。
それは決して偽りなんかじゃない。
とくとくと流れ込む淡い感情。
そうか、俺はこの子が…
「ね、後輩君は名前なんていうの?」
「晴也、神原晴也や。そっちは?」
「三郷未来!よろしく。」
そう言ってまた笑う未来の笑顔は、本当に眩しかった。
こんな醜くて弱い俺とは比べ物にならないくらいに。
俺は愕然とした。
足がカタカタと音を立てて震える。
目の前の光景に失神寸前だ。
見慣れた、忘れかけていた光景に心臓を握りつぶされそうだ。
ロッカーにマジックでびっしりと殴り書きされた『死ね』の文字。
切り刻まれた俺の上履き。
そんな、なんで。
やめろ。
やめてくれ。
刹那、フラッシュバックされるあの記憶。
やめろよ。
_お前なんか死んじゃえ。
_何度も顔面を踏みつけられる。
やめろ、やめろよ。
許して。
_俺の給食のスープにはいつも大量の虫が浮いていた。
_見て見ぬふりをする教師。
やめてくれ…。
_みんなが俺の悪口を言っている。
_今日もトイレに閉じ込められた。
上から水が降ってくる。ほうきも、ゴミも降ってくる。
あ、あ俺は、
「うわぁ‶ぁあぁあア‶ぁぁアア!!!!!!」
悲痛な俺の悲鳴が校舎にわんわんと響く。
瞬間、皆が俺を好奇の目で見る。
痛みを感じるほどに突き刺さる視線。
痛い、痛い。
やめてくれ、逃げたい。俺は、
重々しい鈍痛を訴える頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
嫌なイメージを一つ一つ消していく
消えろ、キエロ。
俺はもう昔とは違うんだ。
心の中でずっと泣きわめいていたあの頃とは違うんだ。
暗闇の世界で一人ぼっちのあの頃とは違うんだ!!!
_泥だらけの体操着。体中に刻まれた傷。消えない痛み。
忘れたいのに、消してしまいたいのに
鮮明にこびりつく記憶が俺を逃がさない。
もう俺は発狂状態だ。
「邪魔だ…邪魔だ邪魔だ邪魔だ!」
近くで俺を笑っていた男子を突き飛ばし、逃げるように校舎を突き進む。
すれ違う生徒たちが驚き、騒ぎ、罵る。
だがそんな事どうだっていい。
荒くなる息を呑み殺して、階段を駆け上がる。
誰もいないところへ行きたい。
また一人きりの世界に逆戻り。
もうそれでいい。
なんだっていい。
少しでも他人を信じた俺が馬鹿だった。
所詮俺はよそ者さ。
離絶された壁をとても越えられそうにない。
もう越えようともがくことも馬鹿らしい。
ガチャ
やっと解放される!
俺は屋上まで駆け上がり、震える手でドアノブを回した。
「誰?」
先客の声を聴いたとき、俺は硬直した。
なんだ、次は何をされる。
お前も俺の敵なんだろ。
やれよ。
俺は抵抗なんてしないさ。
「なにそんなところで立ってんの?ほら、こっち来れば。」
「はっ?」
驚きのあまり素っ頓狂な声が出た。
そこにいた女子生徒は、クスリと笑って俺を手招きした。
その目は見たこともないほど澄み切っていて、
不思議な魅力を持ち合わせていた。
「なんで…。」
「なに?どうしたのよ。変な奴。」
女子は俺に近づいてくる。
ゆらゆらと風に揺れる二つ結いの髪。
「ほら、いつまでもそんなとこ立ってないで!」
固まる俺の手を、小さな手に握られた。
その手はひんやり冷たかった。
でもなぜだろう。
心は逆で、とても暖かい気持ちになる。
「な、なにするんや!」
こんなの慣れて無くて。
乱暴に手を放してしまう。
「もう、痛いじゃない!それに君、1年の後輩君でしょ?この前転入してきた!先輩には敬語だよ?」
ピシッと人差し指を立てて、頬を膨らませる。
その艶やかな素肌に見とれてしまう。
「まぁ別に、私はタメ口でも気にしないけどねー。」
楽しげに話す彼女は俺とは正反対で。
なんだろう、彼女のペースに呑みこまれそう。
太陽の光に負けないほど眩しい彼女の笑顔。
…なんて、クサいかな。
俺は心で苦笑する。
その時、
キーンコーンカーンコーン…
1限の開始を告げるチャイムが鳴った。
「ほらほら、1限始まったよ!私はサボるけど、君は行ってきなさい!」
俺の背中が両手で押される。
「嫌や!」
本当は、心の底では一人ぼっちは嫌なんだ。
もう、辛くて仕方がないんだ。
思わずあげた大声に、彼女は肩をすくめた。
「まったくもう、いきなり大きい声出さないでよ。」
「もう少し、お前と一緒に居たいんや。」
「はっ!?」
それは単純に思ったことだった。
気まずい沈黙が流れる。
時間がたつほど自分が言ったことの恥ずかしさに気づく。
じりじりと赤面していくのがわかる。
「い、今のはなしや!俺もサボりたいからここにいるだけやからな!」
精いっぱいの強がりを吐き捨てて、フェンスの傍へ逃げる。
緑の金網に指を絡ませ、ゆっくり呼吸を整える。
なんなんだ。
こんな感情、はじめてだ。
胸の奥がどうしようもなく熱い。
「ちょっと、なんで逃げんの!」
「はっ!?ついてくんなや!」
「私が先に居たんですけど。」
「お、俺は今忙しいんや!ほっといてや。」
「1限目サボっておいて?」
「それはっ、」
俺が言葉に詰まると、彼女は笑い出した。
俺もつられて笑う。
心の底から笑う。
こんな俺にでも優しく接してくれる。
それは決して偽りなんかじゃない。
とくとくと流れ込む淡い感情。
そうか、俺はこの子が…
「ね、後輩君は名前なんていうの?」
「晴也、神原晴也や。そっちは?」
「三郷未来!よろしく。」
そう言ってまた笑う未来の笑顔は、本当に眩しかった。
こんな醜くて弱い俺とは比べ物にならないくらいに。

