ところが、少女は避けなかった。着地したそこで低く体勢を維持し、先ほどと同じく右手を突き出してくる。

「なっ!?」

驚いたのは、わたくしだけだった。

斬撃を掌で受け止めることは、不可能だ。イーフリートの刃は、人間が鍛え上げた業物とはわけが違う。わたくしの『断つ』思いをそのまま具現化した剣。それが、少女の掌ごときで止められるはずはない。

まさしく。

斬撃は少女の掌を裂き、親指だけを残してすっ飛ばしていた。

それなのに――

「――ぃぐっ!?」

頭を深く深く伏せることで、体への斬撃だけはかわした少女は、低い低い斜め下から、肘までの骨が半分露わになった右腕で、私の喉を突いた。

少女の右腕に残っている親指だけが、わたくしの喉をどすりと圧迫する。

「かはっ」

一瞬の判断。刹那の運動。

それが皮膚を突き破るすんでで、わたくしは後方へ跳躍していた。

(な、そんなバカな……! 腕を斬られてなお、)

(マスター!)

「くっ!」

イーフリートが、わたくしの動揺を窘める。跳躍したわたくしを、少女が追撃してくる。低く、地面を舐めるように。

また、右手が深く構えられていた。そう、斬り飛ばしたはずの右手。赤い毛糸を生やすように、筋細胞、骨、神経が少女の手首を瞬時に再生させていたのだ。

(再生能力!? やっかいですわ!)

そんな能力があるからこその、突進撃か。

負傷を省みる必要のない作戦こそが、少女の攻撃に、反撃に、一撃に、迷いを与えない。

なにより、恐ろしいのは。

少女が、体の痛みを当然受け取っていながら、それを押し殺して、動いていること。

彼女は、戦い馴れている。

自分の体を当然のように傷つけて、痛めつけて、ボロボロになりながらも敵を討つことに。

馴れ、過ぎている。