「……そういう手品は、見たことがない」

「サバイヴァーではないようですわね。もっとも、そんなことは初めからわかってはいましたが」

切っ先を後ろへ引き、身構える女性の全身から、陽炎のように赤い炎が一瞬、ボゥと立ち上った。一瞬であれど、美しく燃え盛る、炎。それがそのまま、彼女の生きざま、こころざしを表していると教えてくれたのは、知識より本能だった。

わかるのだ。

彼女は、赤だから。

そして私も、紅だから。

臨戦万全の状態で女の顔に浮かぶのは、自らに誇りを持った笑み。私が、できない表情。

「わたくしの名はシオン・ハルトマン。正々堂々、真剣勝負を願いますわ。――さあ、いらっしゃい。スカーレットとクリムゾンの違いを教えてあげます」

「……要らない」

だが、私はそれを真っ向から、拒絶した。

そして同時に、別のものを送りつける。さっきから、要らないものばかり押しつけられっぱなしなのだ。

戦いは受ける。

だが、私のなにかを否定するものは、要らない。

私とおじいさまの間に入る邪魔は、『いけないもの』だから。

「私の名前は、ミリアリア。スカーレットとクリムゾンの違いも要らなければ、そもそも、クリムゾンも、要らない」

私は、私を構成する私を、守る。

「アナタが押しつけてくるなにもかも、私は、要らない」