「――勘はよいようですね。どこかの朴念仁のように、これから仕合う相手に、ことの次第を説明するのはもうごめんですよ」

「……褒めても、なにも出ない」

「ふふ。同じ赤を纏う者として、手加減はしませんわよ」

白い手袋をはめた女の手が、自らのひたいになにかを翳す。カードだ。鉛を打ち出す武器を手にする者はたくさん見てきたが、まさか、私とそのカードで戦うつもりだろうか。

(ポーカーなら、負けない)

と、つまらないことを考えた。知識が教えてくれる。こういうのを、冗談というのだ。戦いの場にはそぐわない想像だとも教えてくれる。

「イーフリート!」

「!」

声に反応したのか、女の持つカードが光を帯びた。一瞬、攻撃かと身構えたが、違う。目眩ましにしても、弱い。これなら、閃光弾のほうがつらい。

しかし、おかしい。私の知識にない現象だった。

(なん、だろう)

カードからの光は炎を吐き出し、その炎は蛇のように、女の体に絡みついた。炎の走った部位が、流麗なデザインの鎧に覆われていく。

肩が、腕が、胸が、胴が、スカートが銀で覆われていく。そして、ブロンドの髪を半分隠すように、兜が。

そして最後に、カードが女の身の丈三分の二ほどの剣と化していた。

赤いドレスに、眩しい鎧と剛健な剣。それは、私が今まで相対したことのない――知識の中だけの存在でしかない――騎士だった。

私の知識は、彼女の現象に対して、『無理解』を訴えている。こういうのを、人間では呆気に取られる、と言うのかも知れない。