豊かに波打つ、巻きの入ったブロンドの長髪。どこか遠い目的を見据えているらしい、碧眼。いずこか、いつかの貴族を彷彿とさせる赤いドレスは、当代には不釣り合いかもしれない。町に出れば注視の的になるのは、私の知識に訊ねなくともわかった。

場所はまさに、その町である。人々が行き交い、車が走り、敷かれたアスファルトには多くの白線が引かれた、町だ。

ただ――今はなぜか車も通らなければ人の気配もなく――眠ることを知らない信号機ですら、その明かりを失くしていた。

おじいさまとよく来る町だが、――そこは、まったく異質な空間と化していた。

目の前の女の姿を見たら、どれだけの人がどのように反応するのか、私の『知識』がいつかの猫を見たときのように興奮しているのに、叶いそうにない。残念だった。

私は、女のそんな衣装も見慣れたものだった。驚きはない。なぜなら自分自身、フリルが多量にあしらわれた服を着ているのだから。おじいさまがくれた、黒いワンピース。フリルや装飾の量は、リボンなども含めれば私のほうが多い。

私が着ているのは少女のそれ向けだが、眼前の人間がまとっているのは、淑女が己を美妙に着飾る、それだった。

「人間ではないようですわね。そこまでクリムゾンの染みついた少女が許されるなど、わたくし、少々この世界を蔑みたくなりますもの」

「アナタに、私を分類されたくない。……私は、おじいさまの孫娘」

「……そうですか」

私の言葉を、人間は理解しているのだろうか。先ほどから知識が急速に回転して、この人間が現れた経緯、目的、人格を探ろうとしているが、わからない。

把握できているのは、本能が告げるたったひとつの事実。

目の前の女は、私の、敵だ。

彼女の言葉がことあるごとに、私の存在を揺るがそうとしているのが、感じ取れる。

女性が、ルージュを引いた唇をゆっくり、薄めた。笑みだ。どうやら彼女も、直感的に私を敵だと認識できているらしい。意味がわかりやすくて、とても助かる。