† 紅 憐



差し出されたのは防災頭巾じゃなくて、エプロンだった。むっちーや仁さんがしてるのと、同じデザイン。つまり、お店の。

単純に考えればただの制服だけど……。

「……え、と、なに? 話の流れ的に、まさか裸エプロンでもしろと? それともなんですか、ワイシャツだけになって、エプロンですか」

「してくれるのならば、ぐれ、バックヤードに行こうか」

「仁さん、やだそれ、やらしい」

「櫻さん、やーらーしー」

「最初に言ったぐれのほうが、やーらーしーいー」

「ぐっ……。それであの、実際このエプロンをどうしろと」

「もちろん着るんですよ。その上に。……あ、師匠」

「なんだい弟子よ」

「着る、というより、着衣する、と言ったほうがやらしいでしょうか」

「三十%増しだな」

「なぜエロスを求めますか!?」

「そこにワイシャツがあるならば」

「仁さん、とりあえずむっちーとサシで話をさせてください」

「ぐはっ」

……あ。なんか今のクリーンヒットしたらしい。呼吸器の発作でも起きたみたいに胸を押さえた仁さんが、壁に手をついた。

「なんだなんだ。せっかく僕の小説にも出してやったっていうのに、ツイッターにもめったに来やしないのに、たまに逢ったときぐらいいいじゃないか。夢だぞ男の。ロマンだろ、輝かしい。ワイシャツ真っ白、ああ純粋。……なあ村地、今の僕の倒置法、どう?」

「シビれました、櫻さん。もうサイコー。……抱いて?」

「冗談だとすぐわかるんだよな、そう言われると、なぜか。これも倒置法。そういえば遠地とかいうヤツもいたなあ」

「仁さんは知ってそうな気がする」

「はっはっは、なにせ僕は、世界を統一する全知全能の神だからね。僕の思い通りにならないものはない」

「小説の世界オンリーですよね?」

「さて、どうかな、せっかくだからこのあと、三人で下のカフェに行こうか。天使に会えるかもしれない」

「師匠、そんなことより、ぐれちゃんにエプロンを早く」