「――ぐれちゃんさん、アナタ……」

「もう呼び方へのツッコミはやめるわ。なあに?」

「ワイシャツフェチですね?」

メガネの奥で、彼女の瞳が爛々と輝きました。

「わかる!? そうなの! これね、女物じゃないの! あえての男物! しかもあえてあえての3L! ぶかぶか感がたまんなくってねっ、袖とか捲くんないと手が出ないの! ほら、袖伸ばすとこんな感じ。ぶっかぶっか。手先でぶっらぶら」

「なんですって!?」

「そりゃあワイシャツには、いろいろ種類があるわ! ドレスシャツとか、似たようなものでブラウスとか、まあオーソドックスなのはそのへんだけど、いわゆる男物、カッターシャツの魅力には敵わないわ! やっぱりね、シンプルというかなんというか、『ワイシャツ』と言われて一番にぴんとくるこのデザインでないと! でねっ、それから」

「櫻さんっ、これは思っていた以上のエマージェンシーです!!」

「えっ?」

「うむ、まったく困ったものだ。3Lだと……? なぜそんなあえてのサイズを選んだんだちくしょう、わかってるじゃないか!」

「なにか、まずかったでしょうか」

「いいえっ、大変ぐっじょぶですが、しかし……!」

嬉々として語っていたぐれちゃんでしたが、私達の……いえ、店内に君臨する数匹の野獣の眼差しが自分に突き刺さり始めたのを、やがて感じ取ったようでした。びくりと肩を震わせ、自分を抱きしめる姿が……あ、イイ。

さすさすと、彼女は自分を撫でます。

「なんか、寒気がする……」

勘違いではないのですよ、ぐれちゃんさん。私には見えます。店内に、徐々に立ち込め始める、謎の気体が。

「眠れる獅子が目覚めようとしています、師匠」

「ああ、感じるか村地……。とりあえず、防災頭巾の準備だ。昔はどの家にもあったもんだけどなあ。今はもうないだろうなあ」

「おばあちゃんちにはありましたよ」

「よし、それをぐれにも分けてやってくれ」

「はい。じゃあ、今からちょっと田舎へ里帰りしますので」

「いや村地、今はそれほどの猶予はない。だからこいつで代用だ。これをぐれに」

「了解しました!」