† 仁



なんの理由もなく立ち寄り、ふと疲れたのでベンチに腰を下ろした俺の前に、そいつは一輪の花を持って現れた。

やや太い茎に小さな対の葉を密集させ、細長い実を蜘蛛の足のように生やした刺々しい花。

小さな白い蝶が止まっているような花びらのそれは、クレオメ――西洋風蝶草といった。

普段、どこででも目にする機会もない花だけに、

(珍しいもんを持ってるな)

と思った俺は、直後、飴細工を砕いたが如く弾け散った花びらに、目を疑った。

「なっ」

などと驚いている間に、異変は周囲を飲み込んだ。

見える範囲……正確に固定するなら、公園内の時間が、止まっていた。

「花言葉に、お詳しいですか?」

と、手から花が砂のように溶けていくってもなんの感慨すら見せない少年が、訊いてきた。

「クレオメの花言葉は『秘密のひととき』……だれかと二人きりで話をしたい時には、うってつけの花です」

「……お前……なにもんだ……?」