草薙の指先からは、いつの間にか煙草が消えている。

(煙草一本でこれだけの炎を!? 反則だ!!)

魔法は万能じゃない。やれほいほいで破壊光線を撃ち出すなんてのは、奇跡だ。

が、その奇跡に近い現象を、草薙仁は行使している。

(これが、〝千約〟の、魔法!!)

だが、

「コイツ、えらそうに……!!」

俺だって、負けちゃいないはずだ。

「我、謁見を望まん」

それは、宵闇に澄み渡る、古代アラビア語。

魔法の、発動準備。

巨大魔法陣が完成していないのは、百も承知。

が、シャーリーが再構築に間に合ってくれるのを祈る。

ギリギリの勝負。

俺の詠唱の間に、白光が円を描けば、状況を覆せる。

「神の枝を負いし者、八人の偉大な天使がひとり、水の支配者」

「お、魔法の詠唱か。果たして……こっちの炎に耐えきれるかな!」

轟と、草薙の火が勢力を増した。

嵐にさらされるように、支柱の道具が振動を強める。

『神殿』の中にまで、熱が浸透してくる。

それだけじゃない……円が半端な状態での詠唱のせいで、俺の周囲は闇と靄、炎、風、狂的な極彩色に押し潰されている。

悪魔の囁きが、常よりでかい。