ブレザーを伸ばして、背筋を伸ばしてから私は振り返った。

座っていたセイヤは私を見上げて…私はセイヤを見下ろす。



「……ありがと。

それとさ、セイヤ。

もう1度言うからねっ!私の名前、ホシノだからっ‼︎


……『ゆり』なんて可憐な名前、私には似合わないよ」


へへっと笑って言ってみせる。

自分でもなんとなくわかるよ。


私、きっとはたからみたらひきつった笑顔でしかないと思う。

セイヤは目を見開かせて、片手で自分の口を覆った。



「……ごめん」







期待していた言葉は。



『聞き間違いだろ?それか、花の名前を寝ぼけていったとかじゃん?』


クールなセイヤのことだから、なにもなかったように涼しい顔をしてそう言うと思ってた。


バレバレの嘘でもいいから、言って欲しかった。

安心したかった…




何を?




私は別にセイヤの事が好きなわけじゃない。

すっごい親しい友達ってわけじゃない。


別に、裏切られたわけじゃない。




まだ出会って数日目の私が




セイヤに私の希望通りの答えを願う義理が、ある?






「………気にしてないから」


私はまた痛くなり始めた頭を押さえながら、私は医務室を駆け出た。







私は……ただ………




セイヤのあの切なそうな赤の瞳に



ひかれていただけだったのかな?





目を閉じながら廊下を走ってると、ドンッと軽い衝撃が肩に生じる。


「おいおい、廊下走るな…て室月じゃないか。

お前、もう体は大丈夫なのか?」


「峯浦…先生」



心配そうな顔をした峯浦先生がそこにはいた。



「室月、お前どうした?顔色悪いぞ?

なんかあったか?」


「………先生、1つ聞いてもいいですか」


あぁ、と峯浦先生は微笑みながら頷いた。


「『ゆり』という子は、この学園にいますか?」



私の質問に峯浦先生は驚いたような顔をして…次に焦りを隠せないような顔をした。


「…それはどこで聞いた?」


「私が先に質問しています…答えてください」



峯浦先生は1度目を閉じると、ゆっくりと開けた。


「あぁ、いる」



…………ああ。頭が、痛い。

ズキズキと容赦無く痛めている。



「そうですか…」




私は先生に会釈を軽くすると走り出した。


思いっきり唇を噛みながら。