事務室に入ると、部屋の隅で二課長とロティがなにやら深刻な表情でコソコソと立ち話をしている。近づけば、ふたりの会話が聞こえてきた。
 ロティが不愉快そうに眉を寄せている。マイペースでいつもにこにこしている彼女の、こんな表情は珍しい。

「いくら私がロボットだからって、あんな風に無遠慮に触られるのは不快です」

 なに、セクハラ? 誰が?

 くるりと部屋を見回してみる。ラモット班長がコンピュータ画面に向かって黙々と事務仕事をこなしている以外は、皆一様に応接室の扉をチラチラと見ていた。
 どうやらセクハラ犯は、件のお客様のようだ。そんな奴に礼を尽くす必要があるのか?

 オレの中で静まりかけていた不愉快が、また沸々とわき上がってくる。二課長が苦笑をたたえながらロティをなだめた。

「まぁまぁ、彼も君のことをいやらしい目で見ていたわけじゃないと思うよ。君がすばらしいロボットだから研究者として周りが見えなくなっただけだろう」
「でも……」

 ロティはまだ不愉快そうに口をとがらせている。横からリズが割って入った。

「二課長、お客様は応接室ですか?」

 その声に振り返った二課長が、ホッとしたように笑顔をほころばせる。

「あぁ、リズ。君が来てくれて助かるよ。ロティも嫌がっているが、専門的な話についていけないせいか、私もなんだか波長があわなくてね。科学者の君が居てくれると心強い」
「わかりました」

 いったいどんな専門的な話でセクハラ容疑を煙に巻いたんだ。