「早く入れとか言うなら、見てねぇ振りとかしてんじゃねぇぞ」
と文句言う琉希也君を無視して、ベランダを覗いて誰にも見られてないか確認する。
よし、人の気配なし。
窓を閉めて鍵を閉めてから振り返った。
「そこで、騒ぐとかないから。誰かに見つかったらどうするの」
ベランダの外を指差して琉希也君を睨んだ。
「問題ねぇだろ?っうか、早く開けりゃ良かったんだろうが」
なんて、尤もらしく返された。
そ、それはそうだけど。
「って言うか、来るの早くない?」
時計はまだ8時40分だし。
「遅れてくるより良いだろ?」
いやいや、そう言う問題じゃないから。
着替える暇無かったじゃん。
「はぁ...取り合えずそこ座ってて。着替えるから」
とっとと着替えよ。
「なんのために?別に部屋着で良いぜ」
上下お洒落ジャージの琉希也君が不思議そうな顔をする。
うん、私も今度、こう言うの買おう。
「...いやいや、これはちょっと...」
着替える理由を言うと、自意識過剰だとか思われかねないし。
「心配すんな。襲う時は何を着てても襲うから」
とニヤリと私の心の中を見透かしてくる琉希也君に、顔が真っ赤になった。
「べ、別にそ、そんなんじゃないし」
あぁ、噛み噛みだ。
絶対に隠せてない。
恋愛小説の小説家なのに、恋愛なれも男なれもしてない自分が恥ずかしい。
「ククク..襲って欲しいならいつでもオッケーだぜ」
と私の肩を抱いてきた琉希也君に、
「...あ、や...え、遠慮しときます」
と言って彼の腕からするりと抜け出て距離を取った。
危ない、彼はやっぱり危ない。
ふんわりと彼から匂ったシャンプーの香りにクラッとしちゃったし。
「おいおい、んな警戒すんなよ。嫌がる女を無理矢理ヤったりする趣味はないから」
クハハと笑いながら、ソファーへと向かった彼の背中には悪魔の羽が生えてるように見えました。
「....こ、紅茶か珈琲どっちがいい」
一先ず落ち着かなきゃ。
これからあの話もしなきゃいけないし。
「じゃ、夕方に飲み損ねた紅茶で」
と言った彼に、勝手に帰ったのは貴方だからね?と思った。
「了解」
普通に返事を返してキッチンに向かったのは、彼と言葉の掛け合いをしても勝てる気がしないからだ。



