<12月24日 午後9時半>

 12月24日が特別な意味をもつのは彼氏彼女がいる場合に限りであることは疑いようもないが、それ以前に24日は平日であり、それゆえに社会人には労働が纏わりつく。彼氏がいても、旦那がいても仕事がなしにはならない。そもそも澪波には旦那はいないのだけれども。

「ふー…疲れた。」
「ほい、お疲れ。」
「ありがとう。」

 ホットレモネード、蜂蜜入りは冬の澪波の大好物だ。それをわかっていてこのタイミングで出してくれるのは、澪波の疲れを敏感にキャッチしてくれるこの男がいるからである。

「仕事、残業しなかったんだ?」
「だって今日早く帰らなかったら拗ねるでしょ、聡太。」
「あ、ばれてる。」
「だから家で仕事する分にはいいかなって。」
「まぁ、それもそれで俺としては寂しいんだけど。」
「え?」

 突然真面目な表情になったと思えば、いつも通りの優しい笑顔に変わる。

「…聡太?」
「澪波。」
「なに?」
「結婚、しよっか。」
「…うん。」
「え?」
「え、あ、嘘?」
「嘘じゃないけど、即答?」
「即答だと、困る?」
「困んない…けどさ。」

 キーボードを打つ自分の手はいつの間にか止まっていた。聡太は頭を掻く。

「けど、なに?」
「結婚ですよ、澪波ちゃん?」
「そうだよ?」
「普通女性って悩むものじゃないの?」
「聡太相手に悩む必要ある?」
「それはどういう…。」
「この生活が、このまま続いていくってことでしょ?それを私が嫌がるって思われてたんだとしたら、それこそ寂しいんだけど。」

 むしろそれは自分に対して失礼だと澪波は思う。結婚しようって嘘か!嘘なのか!と怒りたくもなってきた。