* * *

「あ、陸くん…。」
「寒くなかった?暖房、もっとつけようか?」
「だい、じょうぶ。」
「そっか…。」

 気まずい沈黙がまたしても落ちる。抱きしめられているときにはちゃんと話せるのに、こうして顔が見える距離をとってしまうと逆に話せない。

「…ねぇ、海央ちゃん。」
「…なに、陸くん。」
「今もまだ、緊張する?」
「…うん。」

 陸に嘘はつけない。

「そっか。俺も緊張する。こんな風に二人っきりになるの、初めてだし。」
「…そう、だね。」
「あの、さ…。抱きしめて、いい?」

 声に出すのは恥ずかしい。海央は小さく頷いた。すると陸の腕がゆっくりと伸びてきた。

「…海央ちゃんから俺の家の匂いがするって…すげー嬉しいかも。」
「え…?」
「海央ちゃんには緊張させてばっかりだし、俺も緊張してばっかりだけど、でも俺は今こうして海央ちゃんがいてくれることがすごく…嬉しい。だからありがとう。泊まりにきてくれて。」
「そんなっ…私何もできなくてっ…。」
「そんなことないよ。海央ちゃんがいてくれることが、俺はすごく嬉しいから。」
「…まだ私…いっぱい我慢させてる…と、思ってて…。」
「へ?」
「…私、陸くんよりずっと子供だから…。なんでも陸くんに甘えて…。だから、えっと…緊張、してるけど、でも…陸くんが押し倒したいなら…押し倒して…いい、よ…?」
「っ…海央ちゃん!?な、なに言って…!」

 明らかに動揺した陸と、顔を真っ赤に染める海央がまたしても沈黙を作る。その沈黙を破ったのは、陸の方だった。