「…真鈴。」
「…なぁに?」
「…ありがとう。」
「こちらこそ。あ、そうだ。じゃあ、こうしない?」
「え?」

 真鈴は本棚から『アクアマリンの秘密』を取り出した。少し古びた雰囲気に、よく読まれていた印象を受ける。

「ちょっと古いけど、…交換しましょう。そしたら私の家には泰雅くんがくれた一冊だけが残るし、泰雅くんの気にしている〝物がかぶる〟状態ではなくなるでしょう?泰雅くんには、私の一冊をあげる。」

 真鈴の手元に残る、真新しい本。そして泰雅の手には大切にされてきた本。

「あ、私からもね、ちゃんとプレゼント用意してあるのよ?」
「え…?」

 ベッドの上に置かれていた、黒のマフラー。確かにそれは真鈴のものではない。

「袋に入れていなくてごめんね。昨日の夜にできたものだから…。」

 どうやら手編みのマフラーらしい。真鈴のスキルは一体どこまで高ければ気が済むのか。

「メリークリスマス、泰雅くん。」
「メリー…クリスマス。ありがとう、これ…。」
「こちらこそ、優しいプレゼントをありがとう。」

 向けられた甘すぎる笑顔に我慢ができなくなって、泰雅はそっと真鈴の身体を抱き寄せた。

「…泰雅くん?」
「真鈴。…俺と、付き合って…ほしい。その、嫌じゃ…なければ、だけど。」
「あ、えっと、…そ、そっか。私たち、口約束はなかったっけ…?気持ちとしては…その、そんな感じかなって思ってたのだけど。」
「え?」

 衝撃の事実に、抱きしめた腕を緩めて真鈴を見つめた。

「…その…とっくに気持ちは、泰雅くんにあって…あ、でも、言われてみれば付き合いましょうみたいなことは言ってなかったなぁって。…私でよければ、よろしくお願いします。」

 腕の中で小さく頭を下げる真鈴に頬が緩む。ここでキスの一つでも決めることができればかっこいいとは思うけれど、あいにくそこまでの経験値を持ち合わせてはいないし、今は本当にこれで充分だ。

「もう少し温まったら、出かけましょうか。」
「…そう、だな。」
「手でも繋いで。」
「…ああ。」

*fin*