「どうぞ。」
「…雪姫ちゃん、アップルパイ。」
「あ、お母様!ありがとうございます。」

 甘い紅茶の香りと、キラキラ光るアップルパイが二切れが運ばれてきた。

「雪姫ちゃん、洸に襲われたら大きい声出してね?」
「襲いませんよ!一体何を考えて…!」
「じゃ、雪姫ちゃん、ゆっくり過ごしてね。」
「は、はいっ!ありがとうございます。」

 澄枝は優しい笑顔を残して、ドアを閉めた。その瞬間にふぅと長い溜め息をついたのは洸だった。

「…ようやく邪魔者がいなくなりました。」
「洸、百面相。」

 そういって雪姫は洸の頬をつついた。その手はいとも簡単に洸の手に捕まった。

「雪姫のせいです。」

 そのまま腕をひかれれば、すぽっと温かい胸に抱かれてしまう。

「僕の感情が乱されるのは、雪姫のせいです。独占していいのは僕なのに、母さんはいつも独占しようとするでしょう?」
「…独占…までいくかなぁ?」
「独占ですよ!でも、…ダメです。雪姫はあげません。」
「…ふふっ。」
「なに、笑ってるんですか?」
「子どもみたいで可愛いなって。」
「可愛いなって言われても、男は嬉しくないですよ。」
「…だって、拗ねてる洸なんて普段全然見れないもん。」
「…僕は、拗ねてる雪姫が見たいですけどね。」
「あたし、いつも拗ねてるよ?」
「そうですか?」
「今もアップルパイのお預けで、ちょっと拗ねてる。」
「…じゃあアップルパイ、食べましょうか。」

 ゆっくりと二人の間に距離ができる。テーブルに置かれたアップルパイが雪姫を誘惑してくる。