金持ち世界を知らない私は、
春成の怖さも、三ノ宮の怖さも、
いまいちピンとこない。
叶多くんは、生まれた時からその世界にいるせいで、
恐怖が骨の髄まで、染み込んでいるのだろう。
叶多くんを、可哀相だと思った。
ゾクゾク楽しい戦いを前に、あきらめてしまうなんて、
悲しい人だと思った。
私は椅子から立ち上がった。
彼は机に座ったまま、
私が「あきらめる」と言うのを待っている。
彼の前に立ち、制服のネクタイをグイッと引っ張り、
唇を奪った。
いつもは食べられてばかりだけど、
今日は私が食べる側。
彼の唇をむさぼり食べて、
顔を離した。
彼の唇は、切れて血があふれ、
床に赤い水玉もようを作っていた。


