「これ小僧、少しは落ち着かんか」
「だから、落ち着いてる時間は無いんですってば!」
「事情が分からねば、どこに逃げれば良いのかも分からぬわい」
「とりあえず、現世に帰っていてください!」
そう言うと凍雨君は、あたしの手首をつかんでグイグイ引っ張りだした。
ちょ、ちょっと待ってよ凍雨くん! 痛いってば!
少しくらい説明してくれてもいいでしょ!?
「事情は後で説明します! 天内さんは当分、こっちに来ないでください!」
「なんなのそれ!?」
「いいから! とにかく絶対に、こっちに戻って来ちゃだめ・・・」
凍雨くんが息を飲み、足を止める。
凍雨くんの視線の先に、数人の若い男たちが立ちはだかっていた。
全員、薄い灰色の袴を身に付けている。
ということは、まだ新米の、使いっぱしりの術師たちってことだ。
「天内の娘、ここにいたか」
「我々と一緒に来るのだ」
「各一族の当主さま方々が、大広間でお待ちだぞ。来い」
口々にそう言われて、あたしは面食らった。
当主たちが、あたしを待っているから来いって?
逃げろって言われたり、来いって言われたり、わけ分かんないんだけど。
当主たちが何の用なのよ。あたしのこと、嫌ってるくせに。
・・・・・・・・・・・・。
そこであたしは、なんとなーくピンときた。
あたしを毛嫌いしている当主たちが、あたしを会議の間に呼び出した。
くわしい事情は知らないけど、確かにあんまりいい状況とは思えない。
ようやくあたしも、ここにいたって不安を感じ始めた。


