「やっぱり大好き! みんなのこと、大好きだよ!」


「わたくしもアマンダが大好きですけど、その頭のフンは別ですわ!」


「天内君、来たまえ。僕がそこの数寄屋で洗髪してあげよう」


笑いを噛み殺しながら門川君が手招きした。


ひとしきり笑った絹糸が、しっぽをユラユラしながら皆を促す。


「では我らは、先に屋敷へ戻るとしようかの」


「あ、塔子、足元に気をつけるでおじゃるよ? ほらそこに小石が」


道に落ちてる小石を、愛妻のためにマメマメしく除けてあげるマロさん。


みんな感心するやら呆れるやら。


塔子さんは満足そうにゆったり構えている。


「典雅ったらあたしに同調して、つわりまで始まってるの。いっそ代わりに出産してくれたら楽なんだけど」


・・・それって聖母マリアの、処女受胎以上の偉業だよ。


さすがにバチカンで聖人認定されちゃうレベルは、求めないであげてよ・・・。


いったん皆と別れて、あたしと門川君は数寄屋へ向かった。


頭にフンは乗っかってるけど、上機嫌。


鼻歌交じりで足取りも軽やかだ。


「天内君」

「んー?」


名前を呼ばれて顔を上げた瞬間。


あたしは、門川君にキスされていた。


「・・・・・・・・・・・・」



見開かれるあたしの両目。


彼の黒い髪。綺麗な肌の色。


鮮明な空の青。薄桃色の桜の花びら。


好きな人の、優しく柔らかい唇の感触。


その全ての色彩と、感覚と、紛うことなき存在。


あたしの世界の奥深い場所に、記憶となって刻まれた。