お岩さんとセバスチャンさんの、縁側での会話を思い浮かべる。
『自分は一生誰とも結婚しない。子どもも産まない』
そう宣言していた時の、彼女の横顔。
あの時の悲しい涙。
・・・もちろんあたしも門川君も、ふたりの未来に希望を持っている。
でも確証がないのに、期待をもたせるようなことも言えない。
一気にテンションが通常に戻ってしまったあたしは、オズオズとお岩さんの表情を盗み見た。
「おめでとう塔子さん! マロさん! わたくしも嬉しいですわ!」
「心よりお祝いを申し上げます」
ふたりの表情には一点の曇りも無い。
本当に、心から塔子さんの妊娠を喜んでいるんだ。
・・・・・・。
あたしは門川君を振り返った。
門川君はあたしに向かい、静かに微笑みながらうなづく。
・・・うん。そうだね。
門川君の言った通りだ。彼らは権田原一族だもの。
命がこの世に生まれて、その命が生きていくことを、誰よりも祝福する一族。
誇り高く、愛情深く、どこまでも逞しい。
たとえ昨日は、自分の足元の土に涙を流したとしても。
今日はその涙を土から吸い上げ、自らの糧として天に向かって伸びていく。
それが彼らの生きる形。
彼女はその一族を率いる当主。権田原 岩。
そして、彼女の生涯を支え続けると誓ったセバスチャンさん。
このふたりは大丈夫だ。負けない。
絶望や悲しみに簡単に潰されたりなんかしない。
お互いがそばにいれば大丈夫。
それに・・・・・・
あたしだって、そばにいるんだもの!


