失っていた滅火の力を取り戻し、炎の胎動を感じたあの時。
あたしは、これがあたしだという実感に満ちていた。
あたし自身が精一杯に存在している。
それを妬まれても、見下されても、哀れみを向けられても、責められたとしても・・・
そんなもの全部、『クソッ喰らえ』だ。
「お岩さんもセバスチャンさんも、それを知っているんだね」
「当然だ。彼らは命を生み出す民。彼らこそが一番理解しているはずだ」
そうだね。きっとそうだ。
でも・・・やっぱり胸が痛んでしまうのは、あたしの認識不足かな?
だってあんなにも真剣に想っている相手と結ばれないなんて、悲しいよ。
「なんだ、君はもう諦めているのか?」
「・・・・・・へ?」
「現状を受け入れる事と、希望を捨てる事とは違うよ」
門川君が桜の花びらの下をまた歩き出した。
草履がサクサクと乾いた土を踏む、心地良い音がする。
あたしはポカンと彼の背中を見つめた。
「信子長老以外にも、彼らの真実を探す手段はどこかに必ずあるはずだ」
「・・・・・・」
「自慢じゃないが、僕は粘り強くてしぶとい。一度や二度で諦めたりしない」
門川君の肩越しに、中庭の大池が見える。
水の上に強く風が吹き、波立つ水面が光を弾いてキラキラ輝いた。
「この粘り強さは、君から学んだんだ。しっかりしたまえ師匠」
彼はそう言って振り返り、あたしに向かって手を差し伸べた。
「・・・来ないのか? 天内君」
ふわりと彼の前髪が風に揺れ、ひときわ水面が強く輝く。
輝きに負けないほどの美貌が、微笑んだ。


