「何をそんなに緊張しているんだ君は」
汗をかきながらゼハゼハ激しく呼吸するあたしを、門川君が呆れたように見ている。
「だってあいつ、敵じゃん!」
「だとしても、いきなりこの場で襲い掛かってはこないさ」
「隙を見せちゃダメだよ! あいつは絶対に、普通の神経してないよ!」
危険物質系の匂いがプンプン漂ってくるんだ!
あたしには分かる!
あんなやつ、100ケタくらいのパスワードが必要な金庫に閉じ込めときゃいいのに!
「確かに厄介な相手なようだな。セバスチャンですら、彼の本性を見抜けなかったようだし」
門川君の言葉に、あたしは神妙にうなづいた。
そうなんだよ。あのセバスチャンさんが、全く警戒していなかった。
確か昔、同じ学校に通ってたみたいなこと話してなかったっけ?
成重は絵に描いたような地味男くんだったらしいけど。
・・・まさかその頃から、すでに無害な男を演じていたとか?
誰にも気付かれないように、密かに牙を磨いていたんだろうか。
だとしたらかなり手強い。
うちの一番の知恵者を、ずっと昔から、まんまと欺き続けていたことになるんだ。
やばいね・・・マジで。
敵はこれから、どんな手段で罠を仕掛けてくるつもりだろう。
今回は正直言って、あいつの手の平で見事に転がされた気がする。
次回はちゃんと対抗できるだろうか。
「そう心配することもない。今回の件は、特に色々と複雑な要素が絡んでいただけの話だ」
「そ・・・そうだよね! 今回は特別だったんだよね!」
門川君の言葉に、あたしは自分を奮い立たせるように明るく返した。


