「私も彼女を見習い、我が道を邁進する覚悟にございます」
「どんな道だ?」
しゃあしゃあとお定まりの言葉を吐く成重に、門川君が淡々と返す。
「君が邁進する道とは、果たしてどんな道なのだ?」
メガネの奥の目は氷のように冷静で、射抜くように成重を見つめている。
無表情な美貌はまるで人形のようで、真意が読みとれない。
成重の細い目がゆっくりと開かれた。
こちらも感情の読めない瞳が、ゾッとするような色を湛えている。
それでもこの男の顔は、貼り付いた仮面のように微笑んでいた。
ふたりの間に一陣の風が吹く。
揺れて散る花びらの下で彼らは向かい合い、見つめ合う。
門川君の足元から、冷気がヒタヒタと忍び寄った。
春とは思えぬほどに空気が冷えて、腕にざわりと鳥肌が立つ。
張りつめた空間に花びらが一枚、ピシリと凍って落ちた。
「・・・もちろん、この世界の平安に尽くす道にございます」
凍った空気の糸を断ち切るように、成重が言った。
「世界の平安? その言葉に偽りは無いか?」
「私の心情に、偽りも翳りもございません。この身は全て世界の為に捧げましょう」
「分かった。この胸に刻むとしよう」
「恐悦至極に存じます。では、これにて・・・」
仰々しく成重は一礼した。
そしてそのまま静々と立ち去っていく。
その背中をあたしは警戒しながら見ていた。
成重の姿が中庭の木々に埋もれるように小さくなっていく。
そして完全に見えなくなって、あたしはぶわっと大きく息を吐き出した。
うおあぁーー! き、緊張したあぁーー!


