問題なく速やかにって!
長老の座なんて、それこそ権力者のトップたちが目を血走らせて奪い合っているのに!
偶然一族の当主に就任したばかりの新人が、なれるわけないじゃないの!
「反対意見もあったが、彼を推挙する意見が圧倒的だった」
「もったいなくも、ありがたい事でございます」
深々と慇懃に腰を折る男を、あたしは唖然と見た。
前もって根回しをしていたんだ。そうに違いない。
影の薄い、表舞台に上がることなんて絶対に無かったはずのこの男。
印象にも記憶にもまるで残らない、これまで誰ひとりとして気にもかけなかった、この男。
その存在が、急激にあたしの中で大きくなる。
この男の影が、まるで化け物のように・・・。
(・・・・・・!)
あたしの脳裏に閃光が走り、記憶が甦る。
座り女の雛型の事件で、権田原の冬山から転移の宝珠で連れ去られた時。
あたしは、初めて信子長老と子作りマシーンと御簾越しに会った。
その時、確かもうひとつ、人影があった。
三人並んでいた左端の、長い髪の、男か女か判別がつかなかった人物のシルエット。
(・・・・・・こいつだ!)
あたしは目を見開き、息を止めた。
長い髪を後ろに結わえた男の姿を凝視する。
心臓が爆発しそうに跳ね上がり、全身にザッと緊張が走った。
あたしはとっさに門川君の前に移動して、かばう様に立ち塞がる。
そして目の前の男を思い切り睨みつけた。
蛟 成重(みずち なりしげ)。
こいつは・・・間違いなく敵だ!


