「父は自分の寿命を悟っていたようです。その焦りからお岩殿へ、無謀な求婚をしたようですね」
もともと蛟一族は子作りへの執着が強い。
寿命を悟って、子孫を残そうとする本能が暴走したんだろう。
そんな時期に、計ったように信子長老がお岩さんの存在を耳打ちした。
抑えられない衝動は、全てお岩さんへと向かう。
「最近亡くなった兄も、偶然にも父と同じ病でした」
「・・・・・・」
「最後に残った兄は、そのせいで世を儚み、当主を辞退してしまったようです」
「・・・・・・」
「私以外に、一族を継ぐ者がいなくなってしまったのです」
あたしは何も答えず、この人の地味な顔を穴が開くほど見つめた。
あたしの頭の中に、あるひとつの仮説が成り立っている。
次から次へと、この人の兄弟たちが消えていく。
戦いに駆り出されて命を落とす者。
他の一族へ出された者。
タイミング良く病に倒れて死んだ者。
そしてついに、当主である父親も死んでしまって。
・・・・・・。
これは本当に全て、偶然に起こった出来事なのか?
最後に残ったお兄さんは、そう考えたんじゃないだろうか?
だから我が身を守るために、当主の座を辞退した?
そんな考えを廻らせるあたしに向かい、成重さんは微笑みながら言葉を続ける。
「当主就任だけでも分不相応ながら、さらに長老の座に推挙していただきました」
「長老に!」
あたしは驚いて門川君を振り返った。
門川君は無表情にうなづく。
「彼が新しい長老会の一員だ。問題なく速やかに決議されたよ」


