涙で視界がぼやけて、真っ直ぐ歩けない。


あたしは声が漏れないように、懸命に歯を食いしばっていた。


それでも泣き声が飛び出しそうで、奥歯が震えてガチガチ鳴った。


・・・セバスチャンさんが、お岩さんが望んだ言葉を告げたのかどうか。


それは分からない。


お岩さん以外の誰も、それを知ってはならないから。


かけがえのない大切な親友が苦しんでいる。


でもあたしにできる事は、願うことだけ。


どうかあの苦しみが少しでも癒される様にと、祈る事しかできないんだ。


そんな自分自身が情けなくて悔しくて、胸が灼けるように痛い。


切り裂かれる様に痛い。


千切られる様に痛い。


痛い。痛い。痛いよ。


鼻をすすり上げる音も立てられなくて、鼻水が垂れっぱなし。


それを気にする余裕も無く、ボタボタ涙を流して泣いた。


赤ん坊みたいに顔をクシャクシャにして、声を殺してあたしは泣き続けた。


門川君が、そんな見っともないあたしの手をギュッと握りしめる。


彼の指から伝わる冷たい優しさが、あたしの胸の灼ける熱さを宥めてくれた。


あたしも彼の手を力一杯握り返した。


手を伸ばし、それが届いて、触れ合える。


ただそれだけが、なんて奇跡であることか!


あぁ、これ以上を望むべくも無い。


無い・・・・・・。




あたしは門川君に手を引かれながら、ただ彼女の苦しみを思う。


そして泣きながら、この里を後にした。