「できることをやるよ。できないことまで、やるつもりはないさ」
そう言って笑う主さんは、どこまでも主さん節。
カラッと明るい江戸っ子姐さんに、湿っぽさは似合わない。
だってこれから主さんも、自分で選んだ道を進まなければならないから。
「ケモノ道と一緒さね。適当に歩いてりゃそのうち、勝手に道もできるってもんさね」
答えは、ふと気がついて振り返った時に、そこに落ちている。
前に主さんが言った言葉だ。
自分が言った通りのことを、彼女はこれからやろうとしている。
それはやっぱり、寿ぐべき事で。
ならばやっぱり、笑顔が一番ふさわしい。
「では白妙、またのぅ」
「はいよ。じゃあ、また」
「浄火、またね」
「おう、またな」
再会を予感させるこの言葉が、この場に最もふさわしい言葉だ。
その言葉に背中を押され、あたし達は笑顔で洞窟の奥へと進んで行った。
ここで涙は、ふさわしくない。
でもセピア色の洞窟の空気が、どうしても心を物悲しくさせてしまう。
別れって、どんな形でも『哀愁』ってヤツが漂っちゃうもんだから。
だから別れに涙はつきものなんだね。
まるでお寿司の脇に必ずついてくるガリみたい。
ほら、ショウガ薄切りにしてさ、甘酢漬けにしたやつ。
あたしアレ苦手なんだよなぁー。
・・・・・・。
そんな関係ないことで思考を満たして、どうにかこうにか涙をこらえる。
でも涙のヤツもなかなか手ごわい。
ワサビのたっぷり効いたお寿司を食べた時みたいに、鼻がツーンと痛んだ。


