「オレの中には、里緒がいたんだな。だから急速にこれほど惹かれたのかもしれない」
瞳の奥の悲しみを隠すように、また浄火の目が緩やかに細められる。
「だから、きっと・・・」
浄火の言葉は、そこで止まった。
・・・・・・。
きっと。だから、きっと。
きっと、この気持ちは薄れていくのだろう。
もう自分の中に、あなたはいないのだから。
時と共にこの想いも、この悲しみも、薄れていくはず。
だから、心配しないでいい。
なにも心配しなくていい。
忘れるから。
この気持ちをちゃんと忘れて、必ず自分は立ち直るから。
だから全然、心配いらない。
・・・・・・。
語られない声が、あたしにそう告げていた。
あたしはやっぱり、何も返すことができず。
どこまでも優しい浄火を前に、懸命に唇の両端をあげて、涙をこらえるしかなかった。
「叶わない恋・・・か」
浄火の視線が動いた。
少し離れた場所に立つ、お岩さんを気遣わしい目で見ている。
浄火が何を考えているのか、当然あたしにも分かった。
その思いはあたしも同じだったから。
結局、信子長老から真相を聞き出すことはできなかった。
いかにも思わせぶりな、古代神話の大蛇の姿を見せられただけで。
果たしてそれが答えなのかも、彼女が死んだ今となってはもう調べる手立てが無い。
お岩さんの恋は、この先どうなってしまうのか。
そのことが、とにかくあたしは心配でならなかった。


