それに、門川君の影武者になってる凍雨くんのことが心配だった。


早く帰って休ませてあげないと、彼まで犠牲者になってしまう。


「なあ、里緒」


「ん? なに?」


「帰らないで、このままずっとオレのそばにいてくれ」


「・・・・・・」


「って言っても、だめなんだろうなぁ」


そう言って浄火はアハハと笑った。


穏やかに細められた両目が、あたしをじっと見つめている。


その目には相も変らぬ明るい愛情と、あたしへの大きな労わりがはっきりと感じられた。


「オレさ、自信もって言うけど、誰よりも里緒のことが好きだぜ」


笑顔の浄火がチラリと視線を走らせた。


その先には、セバスチャンさん達と話している門川君の姿が。


「あんなメガネなんかより、オレの方がよっぽど里緒を想っているし、大切にできる自信もある!」


「・・・・・・」


「オレ、本当に里緒のことが好きなんだ」


そう言ってまた、ニコッと笑った。


あたしはほんの少しだけ唇の端を上げながら、黙って聞いていた。


自分が今、どんな顔をして浄火を見上げているだろうと心配しながら。


心の奥から湧き上がる、疼くような切なさ。


浄火の気持ちを本当に嬉しく思う気持ち。


なのに、差し出された真心を受け入れられない痛み。


・・・やっぱり、痛みや切なさの方が強いから、油断するとすぐ泣き顔になってしまう。


だからあたしは一生懸命、唇の両端を持ち上げ続けた。


ここであたしが泣いたりしたら、笑ってくれてる浄火の立場が無いもの。