「違うよ! そんなことない! 違うんだよ!」
痩せた細い体の感触が、あたしの腕を通して伝わってくる。
いきなり知らない相手から抱き付かれた子独楽ちゃんは、ビクッと怯えたように体を固くした。
でもあたしは力任せに、痩せた背中を抱きしめ続けた。
「お母さんは子独楽ちゃんを嫌ってなんかいない! あたし、知ってるもの!」
泣き声がピタリと止んだ。
恐る恐る、彼女は首を動かしてこちらへ振り向く。
信子長老にとても良く似た、涙で一杯の目が問いかけていた。
『それは本当なの?』 と。
救いを求めるその泣き顔が、辛かった。
あたしの目には、まるで信子長老が泣いているように見えて。
もう永遠に報われることのない彼女に、あたしはせめて手を差し伸べたかった。
せめて、あなたの本当の気持ちを子独楽ちゃんに・・・。
「うん! 本当の本当だよ!」
「お、お母さん、あたしのこと、嫌いじゃ、ない、の?」
「嫌いどころか、大好きだよ! その証拠にね、お母さんは子独楽ちゃんをかばっ・・・」
「小娘!」
絹糸が、あたしの言葉をそこで遮った。
その語気の強さに、あたしは飲まれて思わず声が引っ込んでしまう。
見れば絹糸と門川君が、揃って首を横に振っていた。
ふたりは無言のまま、『それは言うな』とあたしに訴えている。
そこであたしはハッと思い至った。
そうだ。あぁ、そうなんだ。
あたしは何を言うつもりだったんだろう。
『あなたをかばったから、あなたのお母さんは死んだのよ』


