ふと気付くと、風に乗って小さな泣き声が聞こえてくる。
・・・誰が泣いているんだろう?
声の主を探すあたしの視線の先に、砂浜に横たわる信子長老の遺体が見えた。
そのすぐそばには、どうやら命を取りとめたらしい絹糸がチョコンと座り込んでいる。
そして浄火もすっかり回復した様子で立っていた。
ふたりが沈痛な表情で見下ろしているのは、信子長老と。
その変わり果てた遺体にすがりつき、泣き崩れているひとりの少女の姿だった。
その少女が誰なのか分かって、あたしは驚愕する。
「子独楽ちゃん!?」
そんなバカなと思いながら、目をこすった。
でも間違いない! あれは確かに子独楽ちゃんだ! なんで!?
あたしは門川君を勢いよく振り返った。
「ど、どうして!?」
「浄火君と同じだよ。彼女も大量に出血したから、異形が体から出て行ったんだ」
「じゃあ、浄火も子独楽ちゃんも普通の体に戻ったの!? ていうか、なんで子独楽ちゃん生きてるの!?」
「僕が回復させたからだよ。当然だろう」
事もなげに言う門川君を、あたしは当惑して見つめた。
僕が回復させたって・・・。
だってあなた、絹糸と浄火ふたり分の回復で限界だったでしょ?
「どこにそんな余裕があったの?」
「ないよ。そんな余裕は。だから後回しにしたんだ」
「・・・後回し?」
「彼女と君の体を仮死状態に保ったんだ」
そう言われたあたしは、思い出した。
そういえば門川君に思いっきり罵倒されまくってた時、彼の体から冷気を感じたっけ。
異形を攻撃しようとしているんだと思ったけど。
そうじゃなくて、最初からそれが目的だったのか。
そういやあたしが意識を失う寸前にも、自分の体が急激に冷えるのを感じた。