・・・言えないよ。
そんなかわいそうな彼に、なにを言える?
『あたしが他の男の人のものになっても、あんたは平気なんだ?』
『あたしのことが好きなら、当主の責任よりも何よりも、あたしを最優先するべきでしょ? そうしてよ』
そんな、彼を責めるような、追い詰めるようなこと・・・
とても言えないし、言ってはいけないこと。
門川君の事が、本気で好きだからこそ言えないんだ。
みんな、こんな感情に苦しめられてきたんだ。
あたしのじー様も、永世おばあ様も。
門川君のお父さんとお母さんも。
身に染みて良く分かる。門川君の立場も分かる。
分かるけど。分かるんだけど・・・・・・。
「天内君、何か君、僕に思うところがあるんじゃないのか?」
門川君が突然そう切り出してきた。
あたしの顔を伺うようにジッと見つめている。
複雑なあたしの気持ちを、感じ取ったのかもしれない。
「・・・別に、なにもないよ」
あたしは、そう返事をするのが精一杯。
「そんな風には見えない」
「門川君の気のせいだよ」
「じゃあなぜ、僕を見ない?」
「・・・・・・・・・・・・」
「さっきからずっと君は、僕から目をそらしているじゃないか」
「それは・・・」
「今日から僕としばらく会えなくなるというのに、君は平気なのか?」


