「それでいきましょう! それで!」
「典雅様、『権田原当主が発病』との旨、伝達をお願いいたします」
「承知したでおじゃる」
「みんな、できるだけ早急にここから去るわよ。今すぐにでも」
にわかに室内が慌ただしくなった。
みんな立ち上がり、パタパタ忙しそうに動き出す。
その姿をキョロキョロと見回しながら、あたしは気持ちの切り替えができずにいた。
あれよという間に話が進んで、ついていけない。
まるで夜逃げのような状況に心苦しくなる。
「小娘よ」
ヒザを抱えたままのあたしに、絹糸が近づいてきた。
「我は権田原について行けぬ。永久をひとりにするわけには、ゆかぬからな」
「・・・・・・うん」
「情けない顔をするでないわ。気をしっかりと持て」
「・・・うん」
「向こうへ着いたら、遥峰(はるみね)の指示に従え。あの男ならきっとお前を守ってくれよう」
「うん」
小さな子どものように言われるままコクコクするあたしを、絹糸はどこか不安げに見つめる。
そして念を押すように、向こうではおとなしくしていろ、と繰り返した。
「なにも案ずるな。全て、うまくいく。しま子よ、小娘を頼むぞ」
「うああぁ~~!」
しま子の力強い返事を聞きながら、あたしはやっぱりコクンとうなづくより他に、なかった。


