ウツボは憎たらしいほど的確に、あたし達がいる地点にダイブしてくる。
あたしの襟を咥えた絹糸が、素早く身を翻した。
攻撃をかわされたウツボは、派手に突っ込んで砂を撒き散らす。
お蔭であたしと絹糸は、また大量に砂を浴びるハメになった。
いでで! こ、今度は目に入った!
それにしたって、いったいどうやってウツボを操っているの!?
説得が効くタイプとも思えないし、どう見てもそんな頭良くなさそうだし!
逡巡しているあたしに向かって、信子長老はしつこく指をさして攻撃の指示を出す。
・・・集中攻撃かい! あたし狙い撃ちか!
そりゃこの中で、一番お気軽に狙えるのはあたしだろうけど!
ムカついて睨みつけたあたしの目に、濃い灰色の着物の袖が見えた。
その袖から、ポタポタと何かがしたたり落ちている。
砂地に落ちた赤いそれは、みるみる吸い込まれていった。
その正体を知ったあたしは驚いて目を見張る。
あれは・・・・・・血だ!
しかも、あんなにたくさん! 着物の色に紛れて気が付かなかった!
でもどうして!? 怪我してるの!?
「うぬ、信子め! 飲ませたか!」
絹糸が叫んだ。
「飲ませたって、何!?」
「自分の血を、ウツボに飲ませたんじゃよ!」
「はあぁぁ!? 血を飲ませたぁ!?」
「異形の水で能力が活性化した血を、ウツボに分け与えて支配しておるのじゃ!」
わ、分け与えて、支配って・・・。
ヤクザの固めの盃か! お前らは!
どうりで信子長老の顔色が真っ白だったわけだ。
緊張で血の気が引いているのかと思ったけど、そうじゃない。
本当に体内に血液が足りていないんだ。


