門川君と絹糸が、悟ったような目で彼女の背中を見つめている。
浄火は視線を落とし、静かに首を横に振った。
そしてあたし達は全員、覚悟を決める。
答えは・・・出てしまった。
この人は信じている。これが自分の正しく生きる道だと、本当に信じている。
そしてあたし達も、自分たちが目指す道を信じている。
見ているものは同じであるはずなのに。
お互いが、普通に信じるべきものが、こんなにもかけ離れてしまった。
引くことは・・・できない。
そうである以上、あたし達はやっぱり、戦わなければならないんだ。
たとえ、それを望んでいないとしても。
そんなあたし達の意思が伝わったのか、彼女は同意するようにゆっくりと振り向いた。
ほつれた髪の毛の束が海風に揺れている。
紙のように白い顔は、緩やかに微笑んでいた。
目を奪われるほど寂しい微笑みの背後で、魔の海の揺らぎが、なぜかピタリと停止する。
バタバタと流れていた風も止み、完全に音が消えた。
静かすぎてキンと耳鳴りがするほどの、不審な静寂が辺りを支配する。
(これは・・・・・・)
否応にも緊迫感が増し、あたしの呼吸が速くなった。
そう、これはきっと嵐の前の静けさ。何かが来る前触れ。
でも、何が来るの? 彼女自身の能力は、言霊で他者の思考を支配することだけ。
それでいったい、どうやってあたし達と戦うつも・・・。
―― ゴオォォッ!
なんの前触れも無く、いきなり海面から何かが飛び出してきた。


