「信子よ、正直、我は何度も舌を巻いた。感服したわい」


絹糸が語りかける。


「見事なり。お前が仲間であってくれたならと、何度も思うた」


「なにを言われているのか、見当もつかない」


淡々とした、落ち着き払った声を風が運んでくる。


「私は、何もしていない」


そう。この人は何もしていない。


したのは、全部周りの人間だ。


この人は糸を張り、それを黙って眺めていただけ。


だから彼女は罪に問われない。


自分の手を何も汚していない彼女を、誰も、決して罪に問う事はできないんだ。


だから・・・・・・悲しかった。


してやられたとか、うまく手玉に取られて悔しいとか。


そんな気持ちは全然起きない。


だって彼女は、少しも喜んでなどいないから。


ほんのちょっとも、救われてなどいないから。


あぁ・・・せめて・・・


せめて、『それは罪だ』と彼女を断じることができるなら。


そしてこの先へ行こうとするのを、思いとどまらせる事ができるなら。


あなたを・・・


ここで斃さなくて済むのに・・・。


処罰はできない。止めることもできない。ならば。


世界を守るためには、この傷付いた人をあたし達が斃す以外に、ない。