門川君なら、きっとまだこの人を助けられる。


この程度の瀕死状態なんて、治癒する事は朝飯前だろう。


「永久様」


セバスチャンさんの声が聞こえた。


「どうぞお急ぎください。信子長老の元へ」


「セバスチャン」


「何もおっしゃいますな。どうぞ、このまま」


こちらに背中を向けた彼の顔は見えない。


感情の無い口調からは、彼の心情は読み取れない。


でもあたしには、セバスチャンさんの考えが手に取るように分かった。


誰もいなくなった時、彼はその手できっと・・・


蛟の長老の命を絶つのだろうと。


「・・・・・・承知した」


門川君は、それだけ言った。


絹糸も浄火も、それに対して何も言わない。


誰もが何も気付かない、知らないふりをしている。


本来なら、それはもちろん助けるべきなんだろうけど。


でも・・・・・・


この蛟の人は、超えてしまったんだ。


あらゆる意味で、世界の許容の限界を。


超えてしまった。


「行こう」


絹糸の背に、あたしと門川君と浄火が乗り込む。


絹糸がフワリと宙に浮いた瞬間、あたしの耳に声が届いた。


「ありがとう・・・・・・」


お岩さんが、セバスチャンさんの肩越しにあたしを見つめている。


抱き合うふたりの姿が、あっという間に遠ざかる。


完全に見えなくなってしまうまで、あたしは目を凝らし、見つめ返していた。