「う・・・ぐ・・・」


子猫のように細く弱々しい、呻き声が聞こえた。


砕かれた木片の山の中で、ゴソゴソと何かが動いている。


肩から下が完全にガレキに埋まった、子作りマシーンだった。


頭から真っ赤な血がダラダラと流れている。


どうやら相当深い傷を負ったらしい。


胸が圧迫されて苦しいのか、ゲホゲホと激しく咳き込んでいた。


「子・・・を・・・」


ヒクヒクと首を動かし、何かを探し求めるような動作。


ゆらゆら移ろう、ぼやけた視線。


きっとお岩さんの姿を探しているんだ。


「子・・・わしの・・・子を・・・産・・・」


体は衰弱して、ほとんど意識なんて保てていないんだろう。


朦朧とした頭の中は、自分の子を望む意思のみが支配している。


そのすさまじいほどの執念・・・ううん。


それもまた、衝動なんだろう。


蛟一族は多産と生命の象徴。


その長ともなれば、より多く子を成す事こそが権威の証。


優秀な遺伝子を持つ子孫を、ひとりでも増やす事が絶対の使命。


醜く、浅ましいとまで思える蛟の衝動に、この人は逆らえなかった。


逆らうどころか、脇目も振らずに突き進んだ。


だってそれは蛟一族の長にとっては、ごく当然の『普通』なのだから。


だけど・・・・・・。


それ以外の世界では、それは決して・・・。


ひどく苦しげに咳き込む音。ヒューヒュー鳴るノド笛。


まさに命の灯火が消えようとしている、いまこの瞬間も、なお。


子孫を残す執念にのみ従おうとしている。


その姿は、滑稽を通り越して哀れすら感じさせた。