神様修行はじめます! 其の四


絹糸がシッポを揺らめかせながら、同意した。


「・・・じゃのう。常世島へ連れ込まれでもしたら、厄介じゃ」


「厄介? 何がですか?」


「あの島の出入りの仕方は、ちと面倒なのじゃよ。入ったら最後、閉じ込められてしまうやもしれぬ」


「閉じ込めるって・・・だってババァが約束しましたよね?」


「ちょっと凍雨くん、そんなロコツにババァって・・・」


「もはや遠慮も何も必要なしです。あれはもうババァでいいです。ババァで」



凍雨くんがそう言ってムッと頬を膨らます。



・・・結婚を条件に、ずっと門川君のそばにいられる。


確かに因業ババは、あの時そんな意味の言葉を言ったけれど。



「あのババァが、そんな約束なんて守るわけがないでしょう?」


塔子さんまでババァ呼ばわりしながら吐き捨てた。


あたしもその通りだと思う。


だいたい、門川上層部の約束事なんて、詐欺師がつくる誓約書みたいなもの。


夏休みのスケジュール帳と同じだ。


そこに書かれたものを、本気で信じるヤツはいない。



「信子のことじゃ。その先もいろいろなワナを張っておるであろうが・・・」


「それを踏まえてもなお、最優先は、天内のお嬢様をここから逃がすことでございます」



ここから逃げる・・・。


その言葉をあたしは心の中で繰り返した。


そして後ろめたさを感じて、顔を伏せてしまう。


だって・・・あたしの役目は門川君を守ることなのに。


彼を置いて、自分の身を守るために逃げ出すなんて・・・。