絹糸がシッポを揺らめかせながら、同意した。
「・・・じゃのう。常世島へ連れ込まれでもしたら、厄介じゃ」
「厄介? 何がですか?」
「あの島の出入りの仕方は、ちと面倒なのじゃよ。入ったら最後、閉じ込められてしまうやもしれぬ」
「閉じ込めるって・・・だってババァが約束しましたよね?」
「ちょっと凍雨くん、そんなロコツにババァって・・・」
「もはや遠慮も何も必要なしです。あれはもうババァでいいです。ババァで」
凍雨くんがそう言ってムッと頬を膨らます。
・・・結婚を条件に、ずっと門川君のそばにいられる。
確かに因業ババは、あの時そんな意味の言葉を言ったけれど。
「あのババァが、そんな約束なんて守るわけがないでしょう?」
塔子さんまでババァ呼ばわりしながら吐き捨てた。
あたしもその通りだと思う。
だいたい、門川上層部の約束事なんて、詐欺師がつくる誓約書みたいなもの。
夏休みのスケジュール帳と同じだ。
そこに書かれたものを、本気で信じるヤツはいない。
「信子のことじゃ。その先もいろいろなワナを張っておるであろうが・・・」
「それを踏まえてもなお、最優先は、天内のお嬢様をここから逃がすことでございます」
ここから逃げる・・・。
その言葉をあたしは心の中で繰り返した。
そして後ろめたさを感じて、顔を伏せてしまう。
だって・・・あたしの役目は門川君を守ることなのに。
彼を置いて、自分の身を守るために逃げ出すなんて・・・。


