あの気丈なお岩さんが、本気で恐怖して泣き叫んでいる。


あたしは怒りのあまりに顔中の筋肉がワナワナ震え、我を失ってしまった。


限界値をブッちぎった激情で、自分の人格がメキメキと豹変していくのが分かる。


て・・・テんメぇ~ ゴぉら゛ぁぁああ・・・! 


「お岩さんになにしてやがる! この、クソじじ・・・!」


「この、クソじじいがあぁぁーーー!!」


・・・・・・へ?


これ、あたしが叫んだの? 


と思うほど、タイミングばっちりな絶叫が頭の後ろから轟いた。


あたしは背後を振り返り、その恐ろしい光景に「ひっ!?」と短い悲鳴をあげる。


ま・・・ま・・・・・・


(魔王、降臨!!)


この世のものとは思えないほど凄惨な表情をした男が、魔界のオーラを全身から撒き散らしていた。


彼の解けた黒髪が、壮絶な怒りのためにブワッと逆立っている。


おかげであたしのグツグツ煮えたぎっていた血液が、スーッと冷えて下がっていく。


・・・す、すげえ。もはやこの人、人間じゃねえ。


開けてはならない扉を、ついにその手で開けてしまったよ。


いつかはやると思ってたのよ。


・・・できればあたしの近くで開けないで欲しかったけど。


「今すぐ岩から離れろ! 腐った老いぼれが!」 


魔界の王、怒りの咆哮。


雷が落下したようなビリビリ響く振動で、鼓膜が破れてしまいそう!


一瞬絹糸がビクッと動きを停止したほどだ。


お岩さんと子作りマシーンが驚いてこっちを見上げる。


涙に濡れたお岩さんの表情が、ぱあっと希望に輝いた。


「遥峰えーーー!!」


「その干からびた薄汚ねえ手を岩から放せ! 死ぬまでブチ殺すぞ、てめえ!」