「戌亥! みんな! 頼むからやめてくれ!」
「浄火、お前はおれの目の前で、本当になんでも手に入れてきた」
声を枯らして叫ぶ浄火に、戌亥は訥々と語りかける。
「お前はな、最後におれの一番大事なものを奪ったんだよ」
「戌亥! もうやめるんだ! こんなことして何になる!」
「一番・・・大事なものなんだよ」
手も足も出ず、攻められ続けるばかりの浄火を、戌亥は食い入るように見つめていた。
浄火の声はまるで耳に入らないように、自分の言いたい事を話し続けている。
ふたりの間には、もはや会話は成立していなかった。
「それはな、もうこの世で、たったひとり残ったおれの肉親だよ」
世界中の誰が敵になっても・・・
この人だけは、おれの味方でいてくれる。
世界中の誰ひとり、おれを愛してくれなくても・・・
この人だけは、誰より愛してくれる。
たったひとりの、最後の砦。
おれがこの世界に生まれ落ちた時から、ずっと最高の理解者だった人。
父よりも、母よりも、無条件でおれという存在を喜び、慈しんでくれた。
おれの・・・・・・
大好きな、おばあ様・・・・・・。
「お前は・・・おれの一番大切で大好きなものを、おれから奪い去ったんだ!!」
浄火も、あたしも、仲間達も、村人達も。
この場の全員が、カッと目を見開いて叫ぶ戌亥を唖然と見つめていた。
戌亥の、大きく開いた口元を。
・・・戌亥の言葉に、驚いたわけじゃ無い。
あたし達全員の目は、その口からダラダラと流れ落ちる・・・
真っ赤な血を見つめていた。
―― ドサリ・・・
人形のように、戌亥の体がうつ伏せに崩れ落ちる。
その背中には、深々とナイフが突き刺さっていた。
そして、その背後に・・・・・・
「・・・お、ば、あ・・・さま・・・?」
倒れた戌亥の、放心した声。
その視線の先に、両手を実の孫の血に濡らした長さんが立っていた。


