あちら側では、確かに持てる者が普通なのだろう。


でもこちら側では、持たざる者こそが間違いなく普通なのだ。


それは優劣でもなく、善悪でもなく。


ましてや、幸不幸などでは有り得ないのに。


なのになぜ、自分を受け入れない?


なぜ自分の価値を他者の価値観に委ね、他者に成ろうとする?


それをすれば、きっと道を踏み外してしまうのに。


自身も他者も、不幸に引きずり込んでしまうのに・・・。


「なんでだよ? なんでなんだよ? 戌亥・・・」


ワナワナと唇を震わせ、浄火は泣きながら戌亥へ語りかける。


その答えをもう、彼の口から聞く事はないのを知りながら。


持たざる者である自分が力を持ち、結果、その力で友の命を奪ってしまう。


こんな事が、『普通』であっていいはずがない。


そんなはず、絶対にないのに。


なのに、なぜ我らは力を欲するのだろうか?


・・・なぜ・・・・・・?


「戌亥、戌亥、戌亥・・・」


浄火は、友の名前を繰り返し呼んでいた。


肩を震わせ、すすり泣き続ける浄火をマロさんが悲しい瞳で見つめている。


マロさんには浄火の気持ちが痛いほど分かるから。


彼の気持ちが結局、どうしても伝わらなかった悔しさが。


自分の手で友を殺す決断をするしかなかった苦悩が、誰よりも分かるから。


「浄火殿・・・・・・」


マロさんが慰めるように浄火の肩に手をかけた、その時。


「なぜなのか、理由を知りたいのか?」


炎の中から、淡々とした声が聞こえた。