長さんへのこれ見よがしの、戌亥の力の目覚めも。


セバスチャンさんへの心理的な抑圧も。


村の人たちの持つ能力も、あたし達が彼らに反撃できないことも。


ひょっとしたらお岩さんが子作りマシーンにさらわれた事すらも、彼女の計算なのかもしれない。


張り巡らされたクモの糸の完璧さ。


糸一本まで、どこまでも綿密に組み合わされた緻密さ。


あの美しい顔で、傷付いた心で、穏やかに微笑みながらこの罠を耽々と用意していたのか。


あたしは悔しさを感じるよりもゾッと寒気がした。


もう、どうしようもない。手の打ちようがない。


この状況を打開する手段が、どこにも見当たらない!


あぁ、お岩さん・・・・・・!


―― ゴオォォォッ!


その時、戌亥の体が突然紅蓮の炎に包まれた。


激しく揺らめく業火が、わずか一瞬で戌亥の全身を飲み込んでしまう。


「い、戌亥さま!? 戌亥さまが燃えている!」


村人達の間から悲鳴が上がった。


・・・・・・これ、滅火の炎!?


まさか浄火、あんた、自分の手で幼なじみの戌亥を!?


あたしは勢いよく浄火の方を振り向いた。


浄火は、悲痛としか言いようのない表情で戌亥を見つめている。


力無い声で、自分の炎に滅せられる戌亥に向かって静かに語りかけていた。


「なんでだよぉ? なあ、戌亥」


絶望と諦めに染まった、物悲しい小さな声。


「なんでそんなに・・・『持てる者』が羨ましいんだよ・・・?」


浄火の目が、涙に濡れていた。


「オレ達持たざる者は、そんなに惨めで哀れな存在なのかよ?」