門川君は自分の胸を、手の平で拭い取るような仕草をする。
心の中に潜むドロドロとした、暗い負の感情を払い落とそうとするように。
でも・・・こびりついたそれは、落ちる事はもう決してない。
彼は、恋する事を知ってしまったから。
未熟だった彼の心は、それまでずっと子どものように透き通っていたのに。
ごめんなさい。あたしが・・・穢した。
それでも、それでもあたしは
あなたの心を、その苦しみから解放してあげることなんて、できない。
『好きだからこそ』
心の中でその言葉を、彼に向かって免罪符のように繰り返す。
切なさと苦しさに涙がこみ上げ、目尻が凍った。
落ちることも許されない涙がもどかしくて、あたしは白い息を吐く。
できない。あなたを手放すなんて、できない。だから。
だから・・・・・・
「お願い門川君。あたしを、離さないで・・・」
白い息が、震えた。
嫉妬も、苦悩も、悲しみも、喜びも何もかも。
そのどれからも目を逸らさずに、全部あたしは受け入れると誓うから。
お願い。どうかあたしを、好きでいて・・・。


