神様修行はじめます! 其の四


(彼は救いを求めている)


そう感じた。


朦朧とした意識の中、まともな思考もできない頭が、それだけは感じ取った。


あたしには、それだけで充分だった。


「・・・・・・・・・・・・」


全身にふつふつと燃えるような気力が甦ってくる。


あたしは無理やり口を開けて、極寒の空気を吸い込んだ。


呼吸困難で胸がヒューヒュー音をたてる。


氷の床をギリッと睨み付けながら、身を起こそうと両腕で踏ん張った。


腕全体がブルブル震えて、今にも崩れ落ちそう。


でもあたしは崩れない。


負けない。


そうだ、負けてられっか! 門川君が、あたしに救いを求めているんだから!


なんとしても彼をこの手で守るんだ!


(うおぉぉ! 根性全開、フルッパワー!)


あたしは歯を食いしばり、彼を覆い隠す巨大な氷柱に根性でガシッとすがり付いた。


もう皮膚はマヒして、冷たさも痛みも何にも感じない。


組織が壊死しかけてるのかもしれないけど、んな事、どーでもいい! 


「門川君!」


氷の奥に呼びかけても、彼の表情に変化はない。


氷柱の檻の内で、外側の全てを遮断しているように見えた。


・・・ふと、この大きな氷柱は、彼の鎧なんじゃないかと思った。


傷付くことを恐れた彼が、自分の心を守るための鎧。


それに気付いた時、背後から風を切る鋭い音が近づいてきた。


ひときわ大きく太い氷柱が、猛スピードでこっちに突っ込んでくる。


危ない! と思う間も無かった。


耳をつんざく音を響かせ、ふたつの巨大な氷同士が手加減無しで激突する。


氷の槍と氷の鎧は、見事に粉々に砕け散った。