(彼は救いを求めている)
そう感じた。
朦朧とした意識の中、まともな思考もできない頭が、それだけは感じ取った。
あたしには、それだけで充分だった。
「・・・・・・・・・・・・」
全身にふつふつと燃えるような気力が甦ってくる。
あたしは無理やり口を開けて、極寒の空気を吸い込んだ。
呼吸困難で胸がヒューヒュー音をたてる。
氷の床をギリッと睨み付けながら、身を起こそうと両腕で踏ん張った。
腕全体がブルブル震えて、今にも崩れ落ちそう。
でもあたしは崩れない。
負けない。
そうだ、負けてられっか! 門川君が、あたしに救いを求めているんだから!
なんとしても彼をこの手で守るんだ!
(うおぉぉ! 根性全開、フルッパワー!)
あたしは歯を食いしばり、彼を覆い隠す巨大な氷柱に根性でガシッとすがり付いた。
もう皮膚はマヒして、冷たさも痛みも何にも感じない。
組織が壊死しかけてるのかもしれないけど、んな事、どーでもいい!
「門川君!」
氷の奥に呼びかけても、彼の表情に変化はない。
氷柱の檻の内で、外側の全てを遮断しているように見えた。
・・・ふと、この大きな氷柱は、彼の鎧なんじゃないかと思った。
傷付くことを恐れた彼が、自分の心を守るための鎧。
それに気付いた時、背後から風を切る鋭い音が近づいてきた。
ひときわ大きく太い氷柱が、猛スピードでこっちに突っ込んでくる。
危ない! と思う間も無かった。
耳をつんざく音を響かせ、ふたつの巨大な氷同士が手加減無しで激突する。
氷の槍と氷の鎧は、見事に粉々に砕け散った。


