その顔からは、完全に感情が抜け落ちてしまっている。
元から彼は無表情な人だけど、あれはもうレベルが違う。
門川君、我を失ってる! 力のコントロールができていないんだ!
あたしはとにかく声を限りに叫んだ。
「門川君! 門・・・ げほ! げほ!」
氷の粒を吸い込んだような違和感を感じて、咳き込んだ。
口の中がカピカピになってる。きっと口腔の水分が一瞬で凍り付いてしまったんだ。
それほど強烈な冷気なのに、ますます気温は低下していく。
キリキリと皮膚を刃物で切り付けられているような、体の芯まで凍える冷気。
体が勝手に、痙攣みたいにガタガタ震えて止まらない。
ううぅ・・・寒い。寒いよ・・・。
震えながらあたしはチラリと視線を浄火へ走らせた。
氷片の山に埋もれた浄火は、ピクリとも動く気配が無い。
ふと、前にお父さんと海釣りに行った時の事が甦った。
そういえばお父さん、氷と海水をたっぷり入れたクーラーボックスに魚を入れていたっけ。
『氷〆っていって、これが一番なんだ。鮮度抜群だぞぉ。なにしろ一発で即死するからな!』
・・・・・・・・・・・・。
せっぱ詰まって激ヤバイーーー!
このままじゃあたし達、鮮度抜群になるか、氷の串刺しになるかのどっちかだ!
なんとかしなきゃ!
あたしは門川君に向かって、氷の地面をズリズリとほふく前進し始めた。


